トピック: 1-1 マーロンとトモコ

青一色の空を見上げて一歩、外に踏み出すと、
日に焼けた数人の労働者ふうの大柄な若い男たちが、
空港の前のヤシの木陰に腰掛けて、
英語がわからないと思って、
ヒューヒュー、にやけた口笛を吹く。

 ふん、いやらしいなあ、

うつむいたあたしに気がついて、
スティーヴンがあたしの右手をぎゅっと強く握った。
ちょっと、あたしはほっとしてまた顔を上げた。

 「Hey, Guys!」
 「こっちこっち!」

むこうでマーロンとトモコさんが手を振ってる。
ホノルルまで迎えに来てくれた、
彼らの大きくて古いバンに乗り込む。

カウボーイハットにタトゥー、
後ろでくくった長い黒髪、
袖が肩でジャキジャキに切られたTシャツ、
履き古されて疲れ顔なのに誇らしげな、
三日月のように尖った黒いブーツ。
未だベトナム戦争の終結を迎えていないマーロンは、
あの60年代のまま、この太平洋の島で夢の中を彷徨っていた。

 ブルルンブルルン、

マーロンのオンボロくんが咳き込むようにして停まった。
ちょっとジャングルみたいな前庭から玄関を入ると、
リビングの壁一面、大きなガラス窓。
その向こうに果てしなく広がる青い太平洋。

 「みんな疲れた? 庭に出たら? 気持ちいいよ?」

たっぷりとグラマラスな、そう、
フラダンスがとても上手そうな、
すっかりオアフの島人らしき風貌のトモコさんが、
ダブダブのTシャツにウェーヴの効いた長い髪で、
イルカや蝶々のステンドグラス風のシールで飾られた
その大きなガラス戸を開け放つ。

 〜カラン、〜カラン、

バンブーのエンジェルがゆっくりと揺れた。

 ああ、やっと着いたー、

高校球児の頭みたいに刈り上げられた芝の庭に出ると
あたしはちょっとため息みたいな深呼吸をして、
その上をちくちく裸足で海に向かう。
ロランがその後を黙ってついて来る。
JJも靴を脱ぎ捨て、ヒャッホー!走り出す。
スティーヴンだけがさすがに疲れ切って、
ゆっくりゆっくり、サンダルのまま、あたしたちの後に続いた。

海は青く広く、
向こうの世界に続く路みたいで、
穢れなく眩しかった。

それなのに、
吉田山からやって来たこの4人の誰もが泳ぐ気にもなれず、
それっきり、しばらく誰も口を開かず、水平線を見つめていた。

 「Hey, Guys! Say Cheese!」
 「ほら、チーズって、」

マーロンが陽気に彼の古い一眼レフをこっちに向けた。
それがどこかくたびれた従軍カメラマンのようで
とてもおかしかったのだが、

 「Hey, Everybody, Smile, Smile! Cheese!」
 「笑って笑って!」

それでも、マーロンとトモコさんの他には誰もちっとも笑えなかった。