トピック: 1-4 バックトゥ・ザ・80ズ
風にサワサワと揺れるヤシの木。
月面の黒い石と岩。
空よりも深い青い海、
楽園と呼ぶのにほんとうにぴったりの島だった。
すっかり南の国なぽこぽこ茶色い平屋作りの空港に降りると、
そこからまっすぐに、
アスファルトの道が一本長くのびていた。
この光をいっぱいに浴びた島で
新しい家を見つけるまでのあいだ、そう、
ゆっくりしている時間なんてなかったあたしたちが過ごしたのは、
コナの町の小さな、といっても50㎡ほどの、1LDK。
安っぽいパステルカラー、
バブルガムみたい甘ったるい花模様で埋め尽くされた
ベッドルーム、リビング、キッチン。
長期滞在バカンス用のコンドミニアムの、
恥ずかしいほどにエイティーズ、80年代のアメリカだった。
「・・・狭いね、さすがに4人じゃ、」
「Don’t say that! わかってるさッ!」
思わずそうつぶやいたあたしに、
スティーヴンが声を荒げた。
「・・・sorry」
つい余計なこと口走ったあたしも悪かったけど、
なにもそんな言い方しなくてもいいじゃない。
ちょっと落ち込んで、
すっかり子供みたいに口を開くのが怖くなってしまったあたしには、
ここからの脱獄の朝が待ち遠しかったことったら、ない。
息苦しさとバブルガムな花たちから解放されたくて、
おなじようなコンドが並んだ、
だけどそれ以外に何もない通りを”ホロホロ*”、
ぶらぶら散歩してみても、
こんなに力の漲った海を目の前にしながらも、
あたしたちはどこか息をひそめるように、静かだった。
そしてようやくやって来たその解放の日の朝。
あたしたちはJJの借りて来た車のトランクに荷物を詰めると、
80年代にサヨナラ、アロハー、
コナからまっすぐ島の南へと出発した。
運転手はJJ、助手席にスティーヴン、
うしろにロラン、
そして、あたし。
車の窓から入り込む熱い風、
走りすぎる荒野とも草原ともつかない、
黒っぽく焼けたような大地。
月旅行みたいに。
ああ、だけど、
この島の風って、
ほら、
どこか甘くって。
なんだか懐かしい。
そうそうあたしサ、
実はソロモン諸島にも
行ってみたいんだー。
だけどそんな余計なことは決して口にしまいと、
あたしはポーカーフェイスを決め込んで、
顔を風にばふばふさせながら、黙ってた。
それほどスティーヴンはピリピリ、
ちょっとでも触るとピーンと弾けて
触ったこっちが切れてしまいそうな、
細い針金みたいだった。
あたしたちが島を南へ下がるほど道は細くなり、
木々のトンネルに変わった。
そうして海岸沿いに降りていくと、
玄関前のガレージでJJが車のエンジンを切った。
Welcome to our new home!
ここがぼくたちの家だよ。
それは壁のない家だった。
*ホロホロ=ハワイ語で散歩、ぶらぶら歩きのこと