トピック: 2-3 出会い

あたしがロランを初めて知ったのは
吉田山の隣人スティーヴンの37回目の
B-Day Partyで、だった。

せっかくのJapanだから、Kyoto、だから。

ちいさな中庭の笹は夏が涼しげで、
秋には燃えるもみじ、
冬の粉雪に春の山吹。
スティーヴンとJJは吉田山で、
あたしが「お椀」と呼ぶこの街らしくもあり、
ちょっと異国なKyoto Styleの一軒の古家をシェアしていた。

中庭に面した京間で、
ディランとイェリカがバイオリンとギターで、
どこか懐かしいアイルランドの古い曲を弾きはじめ、
ふすまを取り放った続きのCha-no-Maでは
スコッチのボトルをこれ見よがしに抱えながら
詩人かぶれのジョシュが酔ったふり。
彼の金色の髪が音楽に合わせてふわふわ羽のように揺れた。

その隣で、先月の弘法さんで見つけたガラス玉を
首からさげたミカは、
Rがやたら耳に絡むアメリカンな英語で
パリの気怠さと激しさを纏った黒い服のマリーと
その骨董市の店の情報を交換するのに夢中だった。

そんないつもの見慣れた顔ぶれだったから、
誰もが「ウィットで世界一社交的」と疑わない
スティーヴンの誕生日だから、
いかにも左京区らしい、
いくつもの異なったアクセントの英語、
多国籍、無国籍、
ストーブの上の薬缶の湯気と床の間のアロマキャンドルと、
和と洋がとても華やかで。

くわえ煙草のマリーの横であたしは、視線を感じた。
初めて見るちょっとふしぎな容貌。
スティーヴンがちょうどそのタイミングで、

「ふたりとも前に会ったことあったっけ?」

いかにもアメリカンな軽い笑顔で
あたしをその人の前に連れ出した。
自己紹介、
あたしがもっとも苦手なことのひとつだったから、

「hi, i am akira」
「hi, i am Roland」

そこからあたしは、
そしてそのロランって人も、言葉が続かなかった。

「ロラン、はどこから?なんだかディファレント・・・」

ああ、なんてバカなこといってるの。 
沈黙を破ろうとして、あたしはちょっと後悔した。

「Hey, みんなそれぞれちがうよ。なんてったっけ、
ジュニン、トイロ?え?ジューニントイロ?
ま、でもジャパニーズはみんな同じが安心、かもな」

シニカルに、ロランが笑った。
スティーヴンよりも5歳ほど年上の、
インドの大地に咲く向日葵のような、褐色の笑顔だった。

それからもロランとは、
長く言葉を交わすことはほとんどなかった。
それはこの壁のない家での毎日でも、変わってない。

あの、ほんの少し前の吉田山のパーティーは、
まるで生まれる前のできことのようで、
そして今この島にいるあたしは、

 あたしの10年を彼に渡して!

水びたしの青い空を見上げた。

 それが監督でも、神と呼ばれるものでも、
 誰でも、なんでもいいから・・・。
 あたしはまだ、サヨナラ、はいえない。
 スティーヴンはまだ渡せない!
 
あたしは、
その見えないなにかに向かって、
バスルームの青い空を見上げた。
バナナはもう食べ頃だった。

シャララー、カリーン、
エンジェルが海からの風に静かに舞った。
この島へと送られて来る
吉田山の、
そしてあのお椀のどこかで
あたしたちのこの旅立ちを見守っている
降り続ける雪のようなたくさんの思いに。

二階の踊り場で、
小さなお地蔵さんはいつものようにちょっとうつむいて、
口元を緩め胸の前で手を合わせていた。
どこかで誰かが泣いている、
そうロランは感じながら、
開いた本のページの文字を見つめていた。