トピック: 5-4 エゴイスティック
「どうして…?どうして?どうして?」
ベッドに寝そべっているロランと、
その横であぐらをかいて紙タバコを巻いているJJのもとへ行くと、
どうしてあたしじゃなくてシンディーなのか、
ふたりの間に崩れ落ちるように泣いた。
ロランがあたしの両足をすぅーすぅー、
聞き分けのない子をあやすように撫で、
冷静にJJが眼鏡をちょっと持ち上げた。
「しょうがないさ、スティーヴンがそうしたいって言うんだから。
シンディーはここにいる誰よりもあいつとの付き合いが長いし、
面倒がなくていいってことなんじゃないかな。
今は黙ってあいつの思うようにさせてやるしかないんだよ」
「そんなのおかしいって思っても?それでも黙ってうなずかなきゃいけないの?」
ロランが
「ま、ぼくならあんな厄介な女はごめんだけどね」
左目でウィンクして、あたしの足を撫でながら続ける。
「でも君がいちばんあいつのそばにいたから、
とても辛いのはわかるけど、だけど、
わからなくても辛くても、そんなこといつまでも続かない。
すべては過ぎてしまうんだから、
今はただそれを見つめるだけだよ。
悪いのはシンディーでもスティーヴンでもない。
個人的に受け止めるから、辛いんだ」
エゴイスティック。
なにそれ?
客観視しろ?
そばにいるって、いてくれって、
真如堂でいったじゃない。
なのにこんなの勝手だよ!
”I ........( and you )” アイ、アイ、アイ、
わたし、おれ、ぼく!とそれから君で、
朝食には島のコーヒーを楽しむ。
”You ........( and i )”
あなた、とそれからあたし。
だから、
コーヒーを飲めないナイーヴなあたしには、
ロランとJJの言うことも、
スティーヴンの決断ももうわからない。
わからないってことだけはわかったけれど。
その夜、キッチンの電気を消して、
それでもいつものように2階へ上がってゆくと、
ベッドのスティーヴンは手にしていた本を置いて
あたしに彼のそばに座らせた。
あたしはちょっと、その子供みたいな扱いにイライラした。
「こういうことになったけど、おれには反論しないでくれ。
もしなにかあるならJJとロランに話してほしい。
おれは今・・・」
ゆっくりと両手を胸の前で広げて、
やれやれと言わんばかりに続けた。
「”君の問題”、”君”に費やすエネルギーはないんだ、わかったね?」
”あたし”ーーーの問題?
あたしは、スティーヴンのこの言葉に目眩がした。
あなたの、ほんの少しの思いやりは?
エゴイスト。
だとすればそれはあたしなの、あなたなの?
確かにこれは誰でもないあたしの問題だ。
あなたが自分のいのちのことで精一杯だっていうことも
あたまじゃわかってる。
だけど、あたしだってしんどいよ。
JJやロランもいうように、
もうすぐここを去るかもしれないから、
今のスティーヴンは誰よりも自分のことだけをしなくちゃいけないのかもしれない。
だからすべてアイ、すべておれのことだけ、でいいじゃないって。
だけど、
あたしはそれはちがうと、
どこかでそう思うんだ。
それがもしエゴイスティックだとしても。
だって、みんな、どこかでそうだ。
だから、
一人じゃ生きていけない。
一人じゃサヨナラはいえない。
だから、ここにあたしたちはいる。
あたしたち、
自分のことのほとんどすべて、みんな箱にしまい込んで
この島までやってきた。
あたしは黙ったまま下へ降りた。
それっきりあたしはロランにもJJにも、
このシカゴ行きについては
もう一切なにも言わないことにした。
これが今あたしができることだったから。
「Live as if you were to die tomorrow.
Learn as if you were to live forever.
明日いのちをおえるかのように生き、
永遠に生きるかのように学べ。」
Mahatma Gandhi (1869-1948)


