トピック: 6-1 インターミッション
まるでバケーションな
水平線上の白いシュークリーム雲。
JJがいつものカセットをかける。
Jerry Garciaの柔らかなギター、
ブルー・インカンテーション。
遠い記憶をくすぐるこのアルバムが
あたしはとっても好き。
空港から、ドライブ。
オアフ島の北、ノース・ショアの小さな町。
村の集まりみたいなハワイ島のとはちょっとちがった、
大きな街路樹に塀の続く細い道。
海岸沿いに東へと、
ゆっくりとスピードを落とした車の窓から、
その大きな木の突き出た家を探した。
「この辺のはずなんだけどなあ」
JJが辺りを見回しながら
もう少しそのまっすぐの一本道道をゆくと、
ンパパパ—ッ
小さなクラクションに、
その家の屋根から、
一本の大きな木がHello!
あたしたちに手を振り、
窓から金髪ショートヘアーの中年女が出てきて
ヤア、ヤア、ヤア!
アメリカ映画で観たハッピーファミリーな玄関ポーチ、
揺れるブランコ。
ハワイ島を終えたあたしたちにはちょっと、
青春ホームドラマ過ぎてぎこちない。
わあ、本当だったんだ。
玄関から入ってすぐ左手にキッチン、
そしてリビング。
その中央から空に向かって、
大きな、そう、神社なんかにありそうな、
ジャックと豆の木みたいな木がぐーんっと伸びて、
屋根からはるか空に突き出ていた。
コンコンッ、
とても両手で抱きついても抱え切れない
その幹を軽くノックして、
コンコンッ、
こんにちは、おじいさん!
おじいさんはにっこり、あたしに笑い返してくれた。
やーあ、待っていたよ。
あのこから君のはなしは聞いてるよ。
あのヤシの木は元気にしているかい?
この島もいいところだよ。
海だって風だってね。
しばらくのんびりしてゆきなさい。
「でね、別れた夫がここにこの家を建てたんだけどサ、」
その声に振り向くと家主のぽってり中年女がそう言って、
焼けた素顔をクシャクシャにして笑った。
「先住者のこの木に合わせて屋根をくり抜くしかなかった、ってわけ、」
おじいさんにもたれたあたしに、
まあそういうことさ、ラッキーだったよ、
いたずらっ子みたいにおじいさんが笑う。
「ま、ともかく、お部屋はこっちよ。
あたしと娘はこの上、2階と3階だから。
キッチンや冷蔵庫は自由に使ってね」
若いアジア娘とアメリカ人好青年、
そして国籍不明の中年男の関係とは?!
ゴシップ好きそうなこの中年女のグリーンの目は
すぐに失望の色に変わった。
ロランとあたしはウィンクひとつで同意だった。
おじいさんの奥に用意された大きなダブルベッドの部屋をJJに、
彼にはゆっくり疲れを取ってほしかったから、
そしてその隣の小さな靴箱みたいな、
本当に長細くってね、いかにも子供用の、
そのシングルベッドが二つの部屋を
あたしとロランが使うことにした。
壁のない家に慣れてしまったから、
どうしてもあたしは一人にはなりなくなかったし、
右手が、
ずっとスティーヴンの手を握っていた右手が、
とても寂しがったから。
その日の夕食は、
壁のない家での生活と同じように、
あたしが作った。
この家の住人たちがいつなにを食べているのか
あたしたちはこの家を去るまでわからなかったんだけど。
ガーリック、
ブロッコリー、
にんじん、
島ではほとんど食べなかったエビをオリーヴオイルで炒めて、
レモンを搾ってサラダにした。
「うまい!」ロランは目をクルクルさせ、
JJがみんなのお皿を洗う。
だけどそこはあたしたちの家じゃなくて、
そして空いた椅子が一つ、
あたしたちの心にはぽっかり開いた大きな穴があった。



