トピック: 6-4 テレフォン

ミネソタに本部を置くあのメイヨー・クリニックよりも、
シカゴのK癌専門クリニックのほうがいいみたいだ。
JJたちとのそんな会話があって、
今スティーヴンはシカゴにいた。

クリニックの帰りにナチュラルフード店に行こうぜって、
シンディーを誘って、
兄夫婦の狭苦しい高層アパートを出た。
数日前までのあの島の広く澄んだ空、
空のないシカゴのスカイスクレーパー、
シンディーが本屋でヒーリングの本をみている間、
狭いテレフォンブースの中のスティーヴンは機嫌がわるかった。

「ヘーイ、JJ、おれ。スティーヴン」
「待ってたよ、電話」
「おれのシアトルはどうだ?」
「ああ、ご想像どおり、雨だよ」
「そうか、雨か。らしいな」
「そっちはどう?」
「ふん、まったくシカゴって街は好きになれないな。
住んでる者の気が知れない」
「まあそういうなよ、ちょっとの間のことだ」

ーーJJは相変わらずのんきなヤツだ。
おれには明日がないかもしれないんだぜ?!ーー

「排気ガス、犯罪、せかせかしたストレスの街だよ。
兄貴のアパートは防犯アラーム付きで窓一つ開けられない。
もう息が詰まりそうだ。
義姉さんの取り繕ったような笑顔、
本当はおれが今にも死ぬんじゃないかって、
だけどそれを必死に隠してる、
彼女の止まることのないおしゃべりにもうんざりだ」
「ご両親には?」
「ああ、おれがこんなだって、夢にも思っていない。
こんなこと打ち明けたってどうしようもない。
検査結果が出てから・・・、
そう兄貴にも話したんだ」
「そうか・・・」

それから、一週間が過ぎた。

「ヘーイ、JJ、おれだよ」
「調子はどう?」

毎日の合い言葉。

「今日は気分がいいんだよ、おれ。実はいいニュースがある」

ーーそうさ、
ちょっとぐらいは喜ばしてやろうってね。
本当に誰よりも一番に
あいつらに伝えたかったんだ。ーー

「よく聞けよ、JJ。
Kクリニックの担当医と、
眼鏡野郎の忌々しい診断とはかなりちがってたぞ」
「ん、どうゆうこと?」
「まったく望みがないわけじゃないんだ。
癌細胞のバイオプシーの結果、
確かにノンホジキン、悪性リンパ腫ではあるが、
抗癌剤は30から40パーセントの成功率でやってみる手はあるってさ!」
「すごいじゃないか!」
「おう、おれ、まだおまえたちといられるみたいだ!」
「そうか、よかったよ」
「でもおれはあのF病院のくそ眼鏡野郎を訴えたい、
”殺されかけた”んだぞ、あいつに!」
君らしい口調が戻りつつあるな、JJはそう言いかけた。
「それはそうだけど、まあそれよりも今後を考えよう」
「ふん、・・・そうだな」
くそまじめな男だよJJは、
スティーヴンはそれを飲み込んだ。
「そのほうが建設的さ、だろ?」
「わかった、JJ。そうしよう。
それじゃあちょっと、Akiraにかわってくれないか」
「オーケイ。じゃあまた後で」
「ほら、スティーヴンが話したいって」
晶はちょっと緊張した。
「ハーイ、スティーヴン、どう?」
「ヘーイ、Akiraサン、気分は最高!シカゴも最高!
今JJにも言ったけど、おれ、望みがあるぞ」
「ほんと?!」
「ああ、抗癌剤治療が受けられるんだ!」
受話器から響くスティーヴンの久しぶりの明るい声。
「Akiraサン、君にお礼を言わないと。
ハワイでの毎日の食事は癌の食餌法としては100点中の99点だって。
アリガット、ゴザマス」