読むこと話すこと、それから聞くこと(1)

詩画集「だいすき」 音楽と詩の朗読&トークショー
2004年3月28日(日)午後3時 東京都狛江・泉の森ホールにて


桜の花があちこちで咲き始めた東京の日曜日、午後から夜にかけて二つのリーディングの会に行ってきました。行きたいと思っていたものが、偶然重なった結果のことです。今回は午後の最初の方に聴いたプログラムについて書こうと思います。

この日、最初に行ったのは、詩人と翻訳家が共訳したオランダの作家の詩画集を、訳した二人が読むという会。この会のために11の小さなピアノ曲が書きおろされ、作曲者自身が一つ一つの詩にそって演奏をしました。そしてスクリーンには、詩画集の絵が、一つ一つの詩にそって投影されました。

「だいすき そんなきもちをつたえてくれることば」、これが詩画集のタイトルです。詩を耳で聴くこと、目で読むために書かれた言葉を耳で聴くのは、どんな体験なのでしょう。それとも翻訳者は子どもたちが誰かに読んでもらって耳で聴くことも考えにいれて、翻訳をしたのでしょうか。声を出して読み合いながら、言葉を決めこんでいったのかもしれません。

詩を耳で聴いているとき、まず受けいれ、感じるのは読み手の声です。ああ、こういう声の人なんだ、こんな風に読む人が読んでいるんだ、と声のトーンを追いかけている自分に気づきます。そして声自身の中に何かを聞きとろうとしている感じがあります。言葉の意味に気づくのは、もう少しあとです。ピアノもそうです。最初の何曲かは音やトーンを耳は追いかけていきます。まとまった情緒の受け皿となって、感性が受けとめ始めるのには少し時間がかかります。これは人間の耳の機能と感性の結びつきの特徴なのでしょうか。それとも、耳で、精度の高い情報(詩の言葉や音の連なり)をつぎつぎに受けとめていくには、あるていどの慣れや訓練がいるのでしょうか。

こんなことを思ったのは、会が終わった後で、詩画集を手にして読んでいるときに、書かれている言葉の全部はやはり耳は追いかけられていなかったようだ、と感じたからです。詩人の木坂涼さん、翻訳家の野坂悦子さんによる日本語の訳は、ごく普通の顔つきの、日常で使われている言葉がほとんど、それも小さな女の子のつぶやきとして語られているものなので、難しかったりわかりにくかったりということは全くありません。何気ないのに、しっかりと身のしまった良い味のする、そして軽さ、楽しさ、笑いをふくんだ姿をした言葉たちです。

詩人は、言葉が読まれるときのために紙の上で姿を整えているのと同じように、場の中で充分に言葉が自立できるよう心をそそぎながら、力強く言葉の輪郭を空中に描いていました。翻訳家は一つの詩を日本語とオランダ語の両方で読み、聴く人を見知らぬ言語世界へ、言葉の音の世界へと連れ出してくれました。このような「聴く」体験の中で、耳は多少とまどいながらも「音」としての言葉を楽しんでいたのは確か。意味の世界から少し離れたところで、言葉を楽しむ糸口がここにはあるのかもしれません。

ピアノと作曲を担当した佐伯恵美さんと、会が終わった後でお話ししたとき、最後の曲には最初の曲につながるような音型が隠されていて、ぐるりと一周するようにできているんです、というようなことを聞きました。確かに、アンコールで最初の「だいすき」がもう一度演奏、朗読されたとき、なんともいえない安心感(長い旅からわが家に帰ってきたときのような懐かしさと心地よさ)がありました。最初に聞いたときには追えなかった音のつぶの一つ一つや連なりの意味のようなものが、最後の曲を聴いた後ではよく感じることができました。詩についてもほぼ同じような印象をもちました。

ピアノの音でも、言葉でも、精度の高い言葉であればあるほど、一見易しそうに見える言葉でも、耳だけで聴いてそれを深く理解するには、聴く側にも多少の努力が求められるのかもしれません。もちろん、朗読を言葉を音として楽しむ機会ととらえて、言葉の音の世界だけをさまよう楽しみ方だってあっていいと思いますが。

「だいすき」の終わった後、東京・原宿のライブスペースで行なわれたリーディング・イベント「BOOKWORM」に行きました。わたしが聴いたその夜の終盤の部分では、「読む」よりも「話す」ことが主体の人が多かったです。そこでは「表現」を見せることよりも、「コミュニケーション」の模索に情熱が傾けられているように見えました。聴いたことはとても新鮮な体験でしたし、ここにも切実な言葉の姿があるのを感じました。これについては、また後日、書く機会をもとうと思います。

2004年3月29日午後10時
大黒和恵・editor@happano.org


詩画集「だいすき そんなきもちをつたえてくれることば」(金の星社刊)
ハンス&モニック・ハーヘン/作 マーリット・テーンクヴィスト/絵
野坂悦子・木坂涼/訳

詩の朗読:翻訳家 野坂悦子、詩人 木坂涼
作曲&ピアノ演奏 佐伯恵美
主催 子どもの本を語る会