春にとどいた本、いろいろ

「春をさがして」「ワイズ・ブラウンの詩の絵本」「Book of Days」「Side by Side」「熊出没」他
2006年3月初旬


春を感じるあたたかな日がつづいた3月のはじめより、何冊かの本がつぎつぎに手元にとどきました。友人が送ってくれたものあり、自分で購入したものあり、内容にとくに共通点はないけれど、新しい本がとどくということから「春のきざし」を連想しました。本を出版することは著者にとってはひとつの旅の終わりですが、当の本にとっては旅のはじまりです。

「春をさがして カヌーの旅」は、「森ノ星」(葉っぱの坑夫刊)の著者大竹英洋さんの2册目の写真絵本です。去年8月に出た「ノースウッズの森で」につづく、北米の広大な森ノースウッズを舞台にした子どものためのフォトルポルタージュ。今回はウェインという友だちと二人で、氷の溶けはじめた5月の湖をカヌーで旅する物語です。ウェインさんは著者にとって、友人であると同時に、昔ながらの道具を基本に何十年もこの土地を旅してきたこの森の、そして旅の先輩のような存在。カヌーは森に育つ木をつかったウェインさんの手作りで、見た目もとても美しい。本の中で「ポルタージュ」という言葉に出会いました。湖から湖をカヌーでめぐる旅ですが、ときにカヌーを降りて、カヌーや荷物をかついで歩かなければならないときもあるそうです。そういうとき歩く、昔から踏みかためられた道をポルタージュと呼ぶそうです。巻末に旅のルートとキャンプをした場所を書きいれた森の地図が添付されていて、3週間の春をさがす旅の軌跡を追うことができます。
春をさがして カヌーの旅」(文・写真:大竹英洋、福音館書店たくさんのふしぎ2006年4月号、700円)

「ワイズ・ブラウンの詩の絵本」は「おやすみなさいおつきさま」などで知られるマーガレット・ワイズ・ブラウンの、タイトルのとおり、詩の絵本です。絵はレナード・ワイスガード。日本語訳が詩人の木坂涼さん、『「17才」いろいろ』や『1:00 P.M. 』などの作品で葉っぱの坑夫に何回か登場していただいています。「詩の絵本」はA4より少し小さいサイズの、しっかりした表紙のついた、美しい絵本です。深いグリーンと黒の2色で描かれた彩度の低い落ち着いた色調の絵は、子どもだけでなく、大人も楽しませるにじゅうぶんな魅力をそなえています。そしてことば、詩。すべてカナで書かれ、分かち書きがリズムをつくります。「ふかい みどりの くさの もり」「うみの ひみつ」などいくつかの扉で章がくぎられていて、詩も絵もちがったいくつかの世界が楽しめます。ひらがなで読む詩は、普段つかっている日本語(言いふるされて萎んでいたり、本来の意味とは違うことを連想させてしまう言葉としての)を、元の位置に、基本の位置に、最初にその言葉を知ったときの場所にもどしてくれるような気がします。そして単純なことばを、同じ拍子で繰りだされるカナ文字を、詩をすすんでいくとき、読んでいる心にさわさわドドドと波風がおきることがあります。どうしてなんでしょう。詩の意味をいくら調べても、その理由はわからないのです。
ワイズ・ブラウンの詩の絵本」(詩:マーガレット・ワイズ・ブラウン、絵:レナード・ワイスガード、訳:木坂涼、フレーベル館、1600円)

「Book of Days」はペンシルバニアに住むジェニファー・ヒル・カウカーの第3詩集。扉のページに - for the women in my family - とあって、ああアメリカだなあと何とはなしに思いました。「Book of Days」は日記のようなスタイルでまとめられた詩集で、日曜日の章からはじまり土曜日の章で終わっています。各曜日の詩が冒頭にあり、それぞれの曜日に数遍の詩が収められています。木曜日の詩はこんな風にはじまります。[ 木曜日のドアはギイギイきしむ。油さす?] シャッターのペンキは剥げおち、玄関口の階段にはコーヒーの雨痕おちて、、、、とつづき、そして最後は [ Thursdays's door hinges on everything. ] 週半ばもすぎて日々の疲れといらだちがたまった木曜日、休日の解放まではまだしばしある、そして人生の疲れも、そんな気分でしょうか。木曜日の中に、以前葉っぱの坑夫のP.O.E.M = Playground of Enigmatic Mousersというプロジェクトの中で発表された詩『Relationship』を見つけました。そうか、木曜日か、視覚の遊びのようにも見えるあの詩には、そういう木曜日的側面もあったのか、と詩をまったく違う視線で見る機会にもなりました。
「Book of Days」(Jennifer Hill-Kaucher、FootHills Publishing、$14.00)

「Side by Side」は、フランスの東部(ドイツ国境付近)アルザスに住むドニ・エイモリンのアメリカで出版された詩集です。前半がフランス語オリジナルと英語訳を並べた8遍の無題の詩、後半が英語で直接書かれた作品で「Any where out of the world」というタイトルが付いています。後半の作品を先に読みました。この詩人・作家の作品の中に繰り返しあらわれる自己喪失の感覚や戸惑いが、いっしゅユーモラスに(読む側からすると)、簡易な英語でつづられています。英語が母語ではないドニ。去年とつぜん家に電話があったとき、双方のなまりのせいもあって(それとわたしの聞き取り能力の問題もありますが。とくに電話では)、メールでは何の問題もない英語がうまく通じなくて互いに少し戸惑いました。ちょっとした勘違いもあったりして。goodbye, see you soon on the internet. 勘違いは後でメールで「再会」したときに、それをネタに笑い合いました。「戸惑い」はドニの作品のテイストのひとつでもあるので、なおさら可笑しかったのです。そういえば、前半の詩をフランス語から英語に翻訳したドニの友人、プラディップ・チャウドリ(カルカッタ在住)からも以前電話をもらったことがありました。そのときも、、、、ベンガルなまりの英語と日本なまりの英語で充分に話が通じず残念な思いでした。プラディップはその後もう一度電話をくれました。そこがまたいいです。多少通じにくいことがあっても臆せずまた電話してくる。会話できたことを喜びあう気持ち、そういうパッションが伝わってきます。どういうレベルであれ、それぞれの母語ではできないコミュニケーションや作品を読むことが、英語を通じてできるのは素晴らしいこと。ドニの英語の詩は、このように書ける、書いていいんだ、という一つのよい例であり、複雑な心境入りくんだ思いも、不自由な言語を通して書けば、どこか大粒で(粒がくっきりした)あっけらかんとした面持ちの、母語の詩とは違った味わいのものに仕上るように思います。そしてその味わいは決して悪いものではないのです。
「Side by Side」(Denis Emorine、FootHills Publishing、$8.00)

*たまたまですが、2つの英語の詩集は、同じFootHills Publishing からの出版でした。このサイトから本は購入可能です。

最後にアイヌの絵本を二つ紹介します。「熊出没」はアイヌのミュージシャン、トンコリ奏者OKIの同名のCDに付いてきた大判のブックレットです。台湾の角頭(じゃおとう)音楽というレーベルから今年発売されたもので、残念ながら本は中国語(北京語でしょうか)で書かれていて、英語も日本語も翻訳がないので、絵と漢字をながめて(そして各ページのテキストにあたる音楽を聴いて)意味を想像するしかないのですが。狩りに出かけた父を待つ少年、帰りが遅いので探しに行ったら父の足跡を見つけ、それを追って山に入ったら木の枝に弓矢をみつけ、そして父の足跡が熊の足跡に変わって、、、、台湾の作家による絵と文で、絵がすばらしい。目の粗い布地のようなものにスミ1色で描かれていて、版画のようなあじわい。トンコリ(アイヌの弦楽器)の音楽もいいです。もう一冊の「カンナカムイとむすめ」はアイヌミュージックのレーベルChikar Studioから出版された絵本です。絵は「熊出没」のOKIによるもので、文(語り)はアイヌの神話や昔話をアイヌ語で語りつづけてきた小田イトさん。単純なストーリーとざっくりした、でもアイヌのOKIだから描けたのであろう絵のディテールとセンスは、はじめてアイヌの絵本を手にとるものにとって、充分アイヌのもっている世界観を楽しませてもらえるものでした。

「熊出没」(絵:角頭音楽/Chikar Studio、2625円)は日本の発売元で絵本のフラッシュムービーを見ることができます。「カンナカムイとむすめ」(かたり:おだ いと、え:オキ、ぶん・やく:ちとせアイヌごきょうしつ、1470円)もチカルスタジオで購入できます。