あかちゃんが本を読む

「もりのどうぶつ」 こどものとも0.1.2.(2009年12月号)
文・写真:おおたけひでひろ


え、あかちゃんが本を? と思われるかもしれません。あかちゃんとは何歳までの子を指すかと言えば、多分おしめが取れる前で、歩き始めて間もない子ども、満2歳くらいまでをそう呼んでいるのではないかと思います。人間らしい生活を始めるか始めないか、その時期にもう、「知」の領域にふれるとは、さすが人間。
この時期にあかちゃんの手にするものとして、手でにぎれるおもちゃがあります。絵本もおもちゃの一種と考えられないこともないですが、やはり少し違うかもしれません。おもちゃはそれ自身が相手で、つかんだり触ったり音を出したりしゃぶったり投げたり叩いたり、、、でも絵本は、モノとしてそれ自身というより、紙の表面に描いてある絵や写真を見るものです。あかちゃんですから、なめたり叩いたりもするかもしれませんが。あかちゃんと絵本の関係性は、おもちゃより一歩進んだもののようにも見えます。
福音館書店が月刊で出版している子どもの本シリーズの一つ、「こどものとも0.1.2.」は0歳から2歳までの子どもを対象にした絵本です。最新号の12月号は、葉っぱの坑夫から「森ノ星」という北米のノースウッズを題材にした作品を出している、写真家の大竹英洋さんの「もりのどうぶつ」。大竹さんが通い続けるノースウッズの広大な森に住む、野生動物たちのポートレイトです。
20×19cmというほぼ真四角の、厚手の紙による22ページの小さな絵本。1、2歳の子どもが手でつかんで、広げて、ページを繰るのにちょうどいい大きさ、紙の厚さに設計されているのでしょう。表紙には真正面から撮った、木の実を持つリスの写真が使われていて、紙もピカピカと光沢があり、あかちゃんはきっと心誘われることでしょう。
アカリス、ライチョウ、ヘラジカ、などの森の動物が見開き二つずつで表現されています。写真が目を洗われるようにきれいでただ見ているだけで楽しく、想像力がふくらみます。写真のクォリティ、印刷のクォリティのどちらもが大切にされているからでしょう。精度の高い情報はきっとあかちゃんの脳を心地よく刺激するはず。最初に登場するアカリスは、真横からの姿。「あかりす きょろきょろ やってきて」と短い文章で主が紹介されます。あかちゃんのための本なので、すべての説明はごく短く、ひらがなで最大6文字の行が3行、が標準です。一見なんでもない、特別のことを言っていないようにみえる文章ですが、多分必要にして充分な、森と野生動物をよく知る作者の大竹さんが、よくよく考えて選んだ3行だと想像します。森のアカリスは、襲われるものがいないか警戒して、きょろきょろしながら現れるのでしょうし、木の実をかじれば本当に「かりかりかり」という音がするのに違いありません。子どもに与える本として、これほど大切なことはないと思います。
大人から見ると、絵本に登場する野生動物は一見よく出来たぬいぐるみのようです。アカリスのきれいな毛並み、少し飛び出したビーズのような真っ黒な大きな目、爪まで見える手足と木の実を食べているときの手つき。野生動物を間近に見たことのない目にには、超精緻に出来たぬいぐるみのように見えます。ライチョウの黒を基調にした羽毛に、目の上の赤いアクセント、羽を広げたときの先端の品のいいライトブラウン、コムデギャルソンかという個性的なコスチュームです。
自分の子どもに何歳から本を与えたか、読んでやったか、もう忘れましたが、「こどものとも」シリーズが設定している0〜2歳という年齢は思っていた以上に低く、一瞬、そんな年齢に本は必要なのか、とさえ思いました。でも最近になって、知り合いの2歳前後のあかちゃんが遊びに来るたびに、わが家の書棚のある部屋に入っては、小さな踏み台を自分で持ってきて登り、子どもの本が並んでいるところから1冊、2冊と自分で選んでいるのをみつけ、考えを改めました。驚いたことにその子は、1cm足らずの巾の背表紙に描かれたキティちゃんの小さな顔を見つけて「キディちゃん」と言って同じ本を毎回毎回取り出すのです。それは沼田元気さんの「キディちゃんの夢のお散歩」という素敵に不思議な写真絵本なのですが、あかちゃんは案外目がいい(6、7歳まで視力が未発達だと聞いていたので)ということと、小さなサインに敏感に反応する、という二つの発見があり、紙に書かれたものへの関心はすでに充分開かれているのだと感じました。ちょうどその頃に、その子は熱心に絵を描くようにもなっていたので、納得のいくことではあります。
野生動物との出会い方として、実際に目の前で体験できればそれはもうとても貴重なことですが、もし本や映像で先に出会うのだとしたら、その世界をよく知る人の手で、愛をもって紹介されるのがなによりだと思います。大竹さんは、付録の冊子の中で、シカのあかちゃんの目と同じ、くもりのない瞳をもつ人間のあかちゃんが、絵本の中の動物たちの姿を見るとき、いったいどんな感情が芽生えるのか楽しみにしている、と書いていました。

2009年11月6日(金)13時
大黒和恵・editor@happano.org


おおたけひでひろ文・写真「もりのどうぶつ」(福音館書店、 こどものとも0.1.2. 12月号) 定価410円  *雑誌と同じ扱いなので11月中は書店に置いてあることも多いようです。単体で購入できます。
出版を記念して、世田谷美術館 区民ギャラリーで森の動物の写真展をするそうです。
2009年11月17日(火)〜22日(日)
また、朝日カルチャーセンターで、大竹英洋スライド・トーク『森で出会ったどうぶつたち』も開催されます。

写真展、スライド・トーク、どちらも詳細は、大竹さんのブログでどうぞ。


葉っぱの坑夫刊「森ノ星」についてはこちらをごらんください。