

ディスポ人間
著者:エゼケル・アラン、日本語訳:だいこくかずえ
[この本について]
主人公ケニーの子ども時代(ジャマイカの1970年代、1980年代)は、政治的混乱と経済破綻で、国は沈下の一途をたどっていた。歯止めの効かない貧困、恥の象徴である無学、大人たちの暴力と反モラル、共同体を不吉におおう迷信や呪術、、、そんな「クソ忌々しい村」をいつか出てやる、とケニーは心に誓う。子ども時代の鮮烈な出来事の数々と、国を出てビジネス・コンサルタントとなったケニーの30年後の回想が、日記、手紙、メール、詩や民話などをまじえて語られていく。実話に近い長編小説。
なんといっても、この小説の面白さと魅力は、主人公ケニーの「くーる」で「馬鹿馬鹿しい」語り口にある。起きていることの極端さ、深刻さ、救いのなさを吹き飛ばす<快筆>が特徴。
[著者について]
エゼケル・アランはジャマイカの作家。1970年生まれ。デビュー小説『Disposable People』で2013年度のコモンウェルス新人文学賞(カリビアン地区)を受賞。職業はビジネス・コンサルタント。
2018年10月出版
発行所:葉っぱの坑夫 www.happano.org
ISBN: 978-4-901274-46-3(ペーパーバック)、 978-4-901274-47-0(Kindle)
『ディスポ人間』ウェブ版(2017年7月 - 2018年6月連載)
4歳の頃から、両親はときどきぼくを家からしめだすようになった。1970 年代のことで、家といっても、一間だけの「家みたいな」ものでしかなくて、両親と兄とぼくでそこに暮らしてた。妹たちはまだ生まれてなかったけど、ママとパパは家をなんとかしようと、しょっちゅう手を入れていた。
ぼくと兄さんが家から出されるのは、両親の喧嘩、家での出産、親が急にセックスしたくなったときなど。兄のマーティンはぼくほど気にしてない風だった。ぼくはうんざりだった。
「なんか他のこと考えろって」 これが兄さんの慰め方。
家の窓はふつうの窓ガラスで透明なやつ。ちゃんとカーテンがしまってないと(いつものことだけど)、嵐のような喧嘩、死産の場面、ドタバタのセックスシーン、と中で起きていることが丸見えだった。そのときのやんやの大騒ぎ、大音響はいまも耳について離れない。ああもっと強く、ハアハアヒャー、てめえこのやろう、ほらがんばってほら、もう二度となしだからね、あーもうもうもう、、、押し寄せる感情と絶叫のかずかず。
第1章「2.15 a.m. ー 私有財産」より

Kindle版


本の外観(使われている英文の手書き文字とイラストは、著者の手によるものです)
もくじ
第1章 2.15 a.m. ー 私有財産
第2章 2.43 a.m. ー 更生用ムチ
第3章 3.17 a.m. ー 犯罪は報われない
第4章 4.21 a.m. ー 好戦家のマスターベーション
第5章 ぼくのはじまり
第6章 あいつ、きれーな髪してたなぁ
第7章 クッキー
第8章 音楽は甘い、うーん、なんて甘いんだ
第9章 ハエどもの神様
第10章 ドレッタ・カーペンター
第11章 ガイ
第12章 火
第13章 自分とは
第14章 チビっ子トミー
第15章 会話を探して
第16章 あの夏、鱒ではなくキンメダイに恋をした
第17章 浄化
第18章 パパについて
第19章 猫たち犬たちの秘密の暮らし
第20章 ゴキブリサイズの人生
第21章 断片をつなぎ合わせる
第22章 ママの微笑み
第23章 マーティンと兄さん
第24章 ビヨンセとぼくがいっしょにいないわけ
第25章 二酸化炭素排出量
第26章 牧師
第27章 世にも奇妙な手品
第28章 憎シミ
第29章 プライドのみなもと
第30章 ガーネット
第31章 感謝をあいつは期待した、そのクソ神経、理解できるか?
第32章 サイン、コサイン、タンジェント
第33章 死への願望
第34章 葉っぱをやめた日
第35章 つま先ほどの雑多なこと
第36章 犬が死んでいくのを見る(1)
第37章 犬が死んでいくのを見る(2)
第38章 ぼくはずっと作家になりたかった
第39章 ブッシュピープル
第40章 股間とまんこの土地
第41章 邪悪な霊
第42章 聖なる霊
第43章 皆が言うには
第44章 ぼくとセミコロン
第45章 子ども時代の墓地、もう恐くはない
謝辞